教育学部教員コラム vol.11
2009.01.08 こども発達学科 所澤保孝
以前アメリカ留学から戻ってきて飛行機が日本の上空に近づいたときに日本ってなんて緑の多い国なんだろうと感じたことがありました。それは昨日まで住んでいた南カリフォルニアの砂漠のような風景との対比であったのかも知れません。
山が多くて水が豊かなわが国は昔から木を大切にして生きてきました。私たちは木の生い茂った緑の山を見たりすると心が安らぎます。森はいろいろな面で私たちの生活を支えてくれています。海を豊かにするのは山の木々であるともいわれています。
私は大学から徒歩30分ほどのところに住んでいますが、家の近くに公園があり、そこに一本のカエデの木があります。小高い山のふもとにある公園ですが、特に何の遊具がある訳でもなく、少子化の今となっては訪れる人もまばらな緑に囲まれた公園です。そのカエデの木は公園の外れにあり、樹齢約40年くらいの木です。私のほかに誰れ一人として足を止めてその木を眺める人はいないのではないかと思います。どこにでもある街路樹の一本の木です。
私はそのカエデの木とそれに続く小高い山、そしてその上に広がる青い空や白い雲が大好きで、天気の良い日は大学に出勤する途中にほんのわずかな時間だけ木の前に立ち止まって話をします。もちろん話しかけているのは私の心で、木は私に向かって声を出したりはしません。しかし、そこには確実に「おはよう!お互いに今日も元気で感謝だね」から始まる多くの会話があります。大切なものは往々にして見えたり聞こえたりはしないのではないかと思います。春は新しい生命に溢れた芽を吹き、夏は若者のように葉を生い茂らせ、秋は饒舌に色とりどりに葉を色づかせ、冬は全ての葉を振るわせてじっと寒さに耐え、春の新生に備えています。
(→冬→春→夏→秋→)
われわれの身の回りにある何の変哲もない一本の木が、小さな山が、そして青空がわれわれに多くを語りかけ、生きる力を与えてくれます。ほんのちょっとの時間身近な一本の木、一株の花に目を向けることから自然との対話は始り、その語らいを通して、その環境の中に生きるものの大いなる生命のつながりが教えられるのではないかと思います。
「おはよう!お互いに今日も元気で感謝だね」をいつまでも続けられることを願っています。
所澤保孝(人間発達学科)