教員紹介

教育学部教員コラム vol.37

2011.01.06 こども発達学科 伊藤 賀永

スイスの美しい教会と病院

この夏久しぶりで大学の教員になる前に仕事をしていたスイス・チューリッヒ州にあるラインナウ(Rheinau)に行きました。ラインナウという地名は「ライン川の中州」という意味で、チーリッヒ州の北の端に位置する国境の小さな町です。地名の由来にもなっているライン川に架かる小さな橋を渡ると、そこはもうドイツです。

 

(左側がスイス、右側がドイツです) (国境の橋から見たライン川)

 

ライン川の蛇行によってできた独特の地形と風景、その中州にある美しいバロック式の教会と修道院、また、水辺にはいつも白鳥や水鳥の群れが居て、ここだけ別の時間が流れているようです。週末ともなると、都会の喧騒から逃れて多くの観光客が訪れ、自然の中で特別な時間を過します。

 

(教会と修道院) (ラインナウ教会の内側)

 

また、ラインナウはチューリッヒ州で一番古い大きな精神病院があることでも有名です。私は1995年から2000年までの5年間、そこで臨床心理士・サイコセラピストとして働いていました。その頃は中州にある修道院は病院として使われていました。教会も修道院も州の重要文化財に指定されているので、建物の外観も内装も芸術品のように美しく、一目見た時からすっかり病院の虜になってしまいました。そして、そこで働ける幸運と贅沢に感謝したものです。また、小さな町ですから住民のほとんどが病院の関係者で、顔見知りでした。中にはおじいさんの代から看護師をしている仲間もいて、町全体が病院と共にあるようなところでした。

 

(コンサートで有名な教会のパイプオルガン)

 

修道院と病院の組み合わせは、日本で言えば、例えば、鎌倉の円覚寺に病院があるようなもので、とても奇異に思われるかもしれませんが、ヨーロッパではよくあることです。ラインナウの病院も778年に創立されたベネディクト派の修道院を、明治維新の頃の1866年に改築して、チューリッヒ州で初めての精神病院にしました。それまでもラインナウの修道院では修道僧たちが病人の看護をしていたそうです。このようにヨーロッパでは病人の看護を修道僧や修道女たちがしたという歴史があり、元修道院だったところを病院に使っている例は沢山あります。また、修道院に限らず、お城や領主の屋敷を大学や役所等の公共の建物として使うことはよくあることで、その意味で、ヨーロッパ人は建物においても古いものを大切にし、上手に“リサイクル”していると言ってよいのかもしれません。

 

(かつての老人精神科病棟) (左端の建物は現在州立刑務所になっています)

 

私が辞めてから精神病院が他の場所に移転し、今、修道院の一部は”Haus der Stille(静寂の家)”という祈りの場となり、本来の修道院の姿に戻っています。また、他の部分は、当時は予想もしていなかった、チューリッヒ州立の刑務所として新しく生まれ変わっています。ライン川の流れと水鳥、周囲の風景と建物は当時と何一つ変わっていませんでしたが、そこで営まれている人々の生活は大きく変化し、時間の流れを感じずにはいられませんでした。日本にいる時はほとんど意識しなかったのですが、ラインナウを離れて10年という歳月が流れたことを改めて思い、振り返るひとときとなりました。

 

伊藤 賀永(人間発達学科)

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