教育学部教員コラム vol.126

2018.07.01 こども発達学科 伊藤 賀永

「こども発達学科で学ぶとカワイクなります」

2018年3月24日に卒業式がありました。学科の卒業パーティーで卒業生を眺めていると、

彼らが一様にとても美しく立派で、美男美女の集まりだと感心しました。

そして、このような感慨を持つのは毎年のことなので、我が学科には人をカワイクする

魔力のようなものがあるのではないかと考えてみました。

 

さて、翌月の4月2日には入学式があり、学長と学院長から「大学でよい出会いをして、

有意義な大学生活を送って欲しい」と祝辞がありました。ここで言う“よい出会い”とは、

学問の楽しさ、尊敬できる先生や先輩、敬愛できる友人、そして将来の夢や目標等のこと

ではないでしょうか。では、どうすればそうした出会いができるのか、

私の専門分野である心理学の観点から述べてみたいと思います。

 

恩師の一人である元聖路加国際病院精神科部長の大平健先生の著書に

『治療するとカワイクなります:生きがいの精神病理』という本があります。

その中で大平先生は「出会いは自分が変わることに柔軟でない人には巡ってきません」[i]と

書かれています。別の言葉で言えば、出会いとは、その時々の環境や人々に

自分を合わせていくことで可能になることのようです。

ちなみに、このコラムの題はその本から借用しています。

 

よく「変われない」という人がいますが、それは違います。

人間は、本来、生まれてから死ぬまで発達し、変わっていくからです。

ですから、「変われない」というのは、可能の問題ではなく、変わることに

対して拒否感や不安等を持つという、心のあり様や意思の問題だと言えるのかもしれません。

このことに関して、ドイツのノーベル賞作家のギュンター・グラスが『ブリキの太鼓』

という名著を書いています。

 

この小説は、大人の嘘や欺瞞に絶望して、3歳で成長することを止めてしまった少年の物語です。

ナチス・ドイツの台頭、席捲、崩壊という暗黒の時代背景とも相まって、大人になることを

止めて3歳児のままでいることが、いかにグロテスクであるかということが情け容赦なく

描かれています。

 

自分が大好きで、今の自分に満足している幸せな若者は、きっと多くの出会いが

向こうから飛び込んで来ることでしょう。しかし、大半の若者は、自分が好きでなかったり、

自信がなかったりして、今の自分に満足していないのではないでしょうか。

そして、そのような若者こそ、勇気を持って古い自分を脱ぎ捨て、新しい自分を探して欲しいと願っています。

これを古い言葉で<脱自>と言いますが、大学時代というのは正にそれができる最良の時ではないでしょうか。

 

というのも、自由な時間がたっぷりあり、失敗してもこれまでのようには怒られません。

助けてくれる、親切で多才な人々が大勢いますので、モデルには事欠きません。

窮屈な自分を脱ぎ捨てると、結構気持ちが軽くなって、新しい自分、自分が知らなかった

別の自分に出会えて、楽しいものですよ。

 

大平先生によると、カワイさとは、この‹脱自する›幸福の別名で、イキイキ、ワクワクの

感覚だということです[ii]。つまり、卒業生が美しく輝いて見えたのは、

人間の発達について学んでいく中で、知らず知らずの内に自らの<脱自>を果たし、

その結果、大学で多くの出会いを経験して、将来の夢や目標を見つけ、社会に出ることに

イキイキ、ワクワク、心がときめいているので、その姿がとても美しく見えたのだと思います。

そして、こども発達学科には、どのような状況にあっても、常に学生に勇気を与え、

こうした出会いを可能にしてくれる魔力が潜んでいると私は確信しています。

 

 

(新1年生との記念写真です!お散歩中のユイちゃんも特別参加してくれました。)

 


i) 大平健『治療するとカワイクなります:生きがいの精神病理』新潮社、2013年、50頁。

ii) 同上、171頁。

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