教育学部教員コラム vol.151

2020.10.05 こども発達学科 長澤 真史

電車好きのAさんのこと

はじめまして。この4月に関東学院大学に着任した長澤と言います。初めてのコラムに何を書こうかと迷っていたのですが、今回は知り合いのAさんの話をしようと思います。Aさんは、知的障害の特別支援学校の高等部を卒業後、企業で事務補助をして働いています。乗り物、特に電車が大好きで、週末は特急に乗ったり、その写真を撮ったりして楽しんでいます。最近は、コロナの影響で電車の旅ができないこと、そして東海道新幹線700系のラストランイベントが中止になったことが大変残念なようです。 
季節外れの話になりますが、8月の中頃に、Aさんから暑中見舞いが届きました。電車の写真が載ったハガキに一言コメントの書かれたものです。

いろんな人に電車の写真の年賀状や暑中見舞いを送っているのを聞いていたので、自分にも送ってくれたんだと喜んで眺めていました。最初はなんとなく見ていたのですが、ふと、その電車が南武線の電車であることに気付きました。どうやら、私が4月から関東学院に移ったことを知っていた彼は、通勤に南武線を使うようになったはずと考え、その写真を選んでくれたようです。彼の電車への関心、私の状況についての関心など、短い手紙ですが、いろんな背景が読み取れて、なんだか自分ための歌を詠んでもらったような気分になりました。
彼は、週末には電車の旅番組を見ます。電車の写真を切り貼りした本を作って誰かにプレゼントするのも好きです。初めて行く土地でも、自分で図書館を探して、乗り物の本を楽しんだりします。知的障害のある方の支援において、余暇の過ごし方は課題となることも多いのですが、図書館で楽しむことができれば、どの町にもあるし、お金もかからないし、いろんなコンテンツがあるし、とても使い道の広いスキルだなと感心しました。
 障害のあるこどもの保育や教育では、障害に基づく困難を克服することが重要とされます。そうした障害に関わる“問題”を出発点にして、いかにそれを解決するかというアプローチがある一方で、こどものもつ“関心”や“好きなこと”を出発点にして、それを支え、広げていくことを強調するアプローチもあります。個人的には両方大切だし、簡単に分けられるものでもないと考えていますが、好きなものを介して、世界を広げているAさんの姿をみると、本人の関心や好きなことの持つ力強さを改めて感じさせられます。いつか大学の授業にもゲストに来てもらって、直接それを伝えてほしいなあなんて考えているところです。

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