教育学部教員コラム vol.153

2020.12.21 こども発達学科 大﨑 裕子

しくじり先生がかっこよすぎた話

 「しくじり先生」というテレビ番組をご存じでしょうか。過去に大きな失敗を体験した人が「先生」となり、「自分のような人間を増やすまい」との熱意をもって、自分の言動の問題点と教訓を授業という形で披露する形式の番組です。2014年からテレビ朝日系列でレギュラー放送されており、著名人が自分の失敗を赤裸々にさらけ出して苦悩を告白したり、冷静な自己分析を披露したりする様子が人気の番組です。
 ところで、私の担当する授業に本学科オリジナルの「教職キャリア演習Ⅰ」という授業科目があります。これは主に、教員採用試験を受験していずれ教師になりたいと考えている2年生向けの授業になっています。先日、その授業の一環で、今年度の教員採用試験を受験した4年生から教採合格体験談を聴く機会を設けました。見事現役合格を勝ち取った4年生達が、試験準備の心構えや実際にやったことまでを、具体的にとてもわかりやすく話してくれました。そのおかげで、焦りだけはあるものの何から手を付けて良いのかわからなかった2年生達のやる気に火がつきました。
 そんな中、「僕の不合格体験も話をさせて下さい。僕がしくじり先生になります。」と言って参加してくれた4年生がいました。教採に向けて自分が頑張ってきたこと、試験当日のこと、不合格通知が来た時の気持ちまで、すべて語ってくれました。その彼が、最後に話してくれたのは次のようなことでした。
 「今回、合格できなかったことはやはり悔しい。そして、周りの合格者を見ていたら自分の足りなかったところにも気づけた。だけど、自分は臨任としてでも4月から教師として教壇に立ちたい。教壇に立ったら、臨任だろうと現役合格だろうと、子どもにとっては一人の先生。だから、理想の教師に近づけるように残り僅かな学生という時間を決して無駄にはしない。この3月までにできることをまずは精一杯やる。」
 こんな話をしてくれた「しくじり先生」を、私は心底かっこいいと思いました。不合格という挫折体験は、誰にとっても辛いものですし、たくさんの努力を重ねた結果なら猶更のことです。それにも関わらず、彼の話には、自分の経験を後輩に生かしてほしいという優しさ、自らを省みる謙虚さ、教採合格をゴールとするのではなくどうしたら理想の教師に近づけるかを考え続ける教職への情熱、そうしたすばらしいものが幾つも含まれていました。なにより、それを素直に伝えられる彼の強さに私は心打たれました。彼にとって、今年度教員採用試験の現役合格に至らなかったことは、その事実だけを切り取って見れば「しくじり」かもしれません。しかし、きっと彼のこれからの長い教員生活においては、決してあれはしくじりなんかではなかった、と思える日が間違いなく来ることを予感しています。

 
(写真は、大学キャンパス内にある大きな銀杏の木です。今回ご紹介したエピソードは、この冬晴れの空に目を見張るほど鮮やかな黄金色の葉と同じように輝いて見えた学生のお話でした。)

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