教員紹介

教育学部教員コラム vol.157

2021.04.05 こども発達学科 石渡 浩司

最近気になったことから~ワクチンを接種するのは「誰」?

最近、新型コロナウイルスのワクチン関連のニュースを見聞きする機会が増えました。先日、「(ワクチン接種を受ける対象者が)接種する」という表現が新聞で使われていたので、ちょっと気になって調べてみました。口語(調)であればそのように言うこともあるかもしれないけれど、本来の表現は「接種を受ける」ではないかと感じたのです。実際にワクチンを人体に移し植える「作業」をするのは医師や看護師なので、「接種する」の主語は、明示されない場合が多いものの本来医師や看護師ではないかと思います。また「接種」と「投与」はまったくの同義ではありませんが、ワクチン投与を受ける人が「投与する」とはまず言わないので、この観点からも「(接種を受ける)人が接種する」は不合理に感じます。基本「人に接種する」ではないかと思います(その人が主語なら「接種を受ける」)。
それで、大学のHPからアクセス出来る朝日、読売、毎日、日経の4紙の電子版で、「接種する」等で記事を検索し、調べてみました。結果、どの新聞でも、両方の使い方が普通にされていることが分かりました。一つの記事の中に二つの用法が混在している例もあります。「医師が接種する」といった場合、文脈により、「医師が(人に)接種を行う」を意味する場合と、「医師が接種を受ける」を意味する場合と両方がありました(ただ、通常接種を受ける人が話題となる事柄なので、前者の意味で「医師」が主語として明示される例はあまりなかったと思います)。また「おもしろい」例として、看護師が看護師にワクチンを接種している写真付きの記事があったのですが、「新型コロナウイルスのワクチンを接種する…看護師」と写真の説明がされていました。そうすると、これは(相手に)ワクチン接種をしている看護師についての写真なのか、接種を受けている看護師についての写真なのかすぐには分かりづらい、ということになります(記事の内容と写真の構図からは後者です。朝日3月16日朝刊、但馬地方版、27頁)。
英語の場合、「(ワクチン等を)接種する」は、‘vaccinate’あるいは‘inoculate’です。他動詞なので、目的語に「(接種を受ける)人」が来ます。つまり「(接種を受ける)人に接種する」ということになります(名詞形を出すと話が複雑になるので、ここでは動詞だけの話とします)。接種を受ける人を主語にするなら、受動となりこれらの動詞は過去分詞(「接種される」)となります。たまにLINEでやり取りする英国人の友人に先日、(ハワイに住む)私の母がワクチン接種を受けたことを伝えたところ、‘It’s good to know that your Mum’s been vaccinated.’と返してきました。このように、英語では明らかに「接種を受ける人が接種する」とは言いません。日本語の「接種する」が両義的なのは、英語等とは異なり、主語を使わずに表現できる日本語の特性と関係しているかもしれないと思ったりします。
「(接種を受ける人が)接種する」は、「髪を切る(=切ってもらう)」等のように、自分の意思により相手に行為してもらうと考えることも出来るかもしれないと思ったりします(本来使役)。また、「接種する」によく似た例として「手術する」が思い浮かびました。本来主語は医師ですが、手術を受ける人も「手術する」と言います。これも新聞には両方の例がありました。広く使われている表現であればそれで良いということなのかもしれません。日本語は柔軟性のある、あるいは「アバウトな」?言語だということだと思います。これは、「行為を受ける人が主語となり能動態となる例」ですが、念のため図書館で日本語の使用法や誤用等に関する本を何冊か確認してみましたが、その限りでは出ていませんでした。このコラムを読まれた皆さんは、「接種(する)」についてどのように考えられるでしょうか?
ワクチン接種については、このような語法の問題よりも、副作用の問題や接種の時期の問題等の方がよほど切実ですが、昨年度は仕事や授業がほぼオンラインとなり、言葉の伝達手段が口頭ではなく文章となる機会が格段に増えたため、書き言葉の使い方にはかなり神経を使いました。それで今回どうなっているのだろうと気になったのかもしれません。いずれにしても、少しでも早くコロナ禍が収束し、以前のように普通に教室で授業を行える日が来ることを心から願っています。

 

 

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