教育学部教員コラム vol.97

2015.11.01 こども発達学科 伊藤 賀永

『ファンタジーセラピー』

今年6月末にドイツの出版社より“Fantasietherapie: Die Realitat in der Fantasie
wiederfinden (ファンタジーセラピー:ファンタジーから現実を再発見する)“という題の本を上梓した。これは、筆者が1996年から2001年までスイスのチューリッヒ州立ラインナウ精神病院で精神療法家として働いていた時に、写真の治療者仲間と一緒に開発した集団精神療法についての本である。

 

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この療法は、その名前が示すように、ファンタジーの持つ治癒力に注目し、精神障害のために自分の世界から抜け出せなくなった人に、ファンタジーを通して「気付きの体験」を促し、現実世界に戻るきっかけを提供するものであり、これまでの精神病治療のタブーに挑戦する試みでもあった。

 

開発した当初から専門誌に発表したり、ワークショップを開いたりして、専門家から意見や批判を募り、それらを臨床活動に取り入れ、この療法の精度を高めていった。そして次第に「いつ本を出版するのか」という質問を受けるようになり、我々の中でも本にまとめて、この療法の真価を広く世に問いたいと思うようになった。しかし、2002年に筆者が居をスイスから日本に移したことや、執筆者の一人が重い病気に罹ったことで、出版プロジェクトが長期に亘って頓挫し、一時は本の出版を諦めたこともあった。

 

しかし、2013年春より筆者がサバティカルでチューリッヒに住むことになったことをきっかけに、本の執筆活動を再開し、1年掛けて現在の精神病治療の研究と臨床に見合った新装版としての本を書き上げることができた。それは出版プロジェクトを立ち上げてから実に15年目のことであった。

 

我々三人とも、ラインナウ精神病院を退職し、今はそれぞれの道を歩んでいる。一緒にファンタジーセラピーをする機会はもう訪れないかもしれないが、臨床活動の要として、また、友情の証として、ファンタジーセラピーは我々の中に存在し続けると確信している。

 

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伊藤 賀永(こども発達学科)

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