教育学部教員コラム vol.42

2011.06.23 こども発達学科 鈴木 公基

自然環境から学ぶこと〜人間環境学部の教員として

私が山登りを趣味とするようになって間もなく5年が経とうとしています。その間に山からいろいろなものを学びました。そのひとつが,今ある自然環境は長い年月をかけてそこに存在するということです。そして,ひとたびその自然環境が破壊されたり失われたりすると,その回復にはかなりの長い時間を要するか,あるいは二度ともとには戻らなくなるということです。

 

福島と群馬の県境近くに,日本最大の湿原である尾瀬があります。5月から6月にかけて水芭蕉で賑わう有名な場所です。湿原というのはつまりは湿地ですが,これはかなり長い年月をかけてつくられていきます。湿原は植物などが腐って池などの底に堆積し成長します。そのスピードは1年間に1ミリメートルと言われており,尾瀬の湿原は1万年前に形成され今に至っているということです。

 

尾瀬には木道と呼ばれる木製の通路が敷かれていますが,これは,湿原を守るための工夫です。たまに,水芭蕉や高山植物を撮影するために木道を外れて湿原に足を踏み入れている人を見かけますが,このようなことは言語道断であって,自然を愛するどころか,自然を破壊する行為でしかないと言えます。湿原に足を踏み入れると足はズブズブと沈み,地面は数センチ下がります。仮にそれが3センチメートルだったとしても,そこが元通りに回復するまでには30年かかる計算になります。ほんの一瞬の安易な気持ちが自然30年分の時間を奪うという現実がそこにあることを知ると,私たち人間は自然とのつきあい方にもっと敏感にならなければならないと感じます。

 

長い年月をかけて変化するものに対して,私たちはその変化を実感することはほとんどありません。逆に見れば,自然環境が長い年月をかけて形成されること,そのような小さな変化を積み重ねて今の自然環境が存在していると理解できることは,その人の大きな力であり,世の中にとっても貴重なこととなるでしょう。自然と向き合う時,太古の昔から続く時間の流れに思いを巡らすことはあまりないでしょう。しかし,そのような楽しみ方ができると,私たちの住む世界そのものがまったく別のものに見えてくるのではないでしょうか。

 

尾瀬ヶ原の湿原に咲く水芭蕉(6月)。
長い年月をかけて形成された湿原に,長い年月受け継がれた水芭蕉のいのちが咲いています。

 

 

鈴木 公基(人間発達学科)

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