教育学部教員コラム vol.46

2011.10.20 こども発達学科 三谷 大紀

「絵本を読み聞かせる」ということ

授業で学生たちに向けて絵本を読むことがあります。表紙を見せ、読み始めると「あの絵本知っている」「寝る前にいつも読んでもらっていたぁ」と言った声が聞こえてきます。普段はまったく意識していなくても、かつて自分が子どもだった頃、絵本を読んでもらった記憶がふっと呼び起こされるようです。さらに、読んだ後に感想を聞くと「このページの、この絵柄が好きだった」とか、「この熊の表情が怖かった」など、それぞれがかつて懐いた思いを語ってくれます。そうした姿からは、同じ絵本を読んでもらっていても、一人ひとりがイメージしている事柄(読み手がまったく想定していないことの場合もある)が違うことがわかります。聞き手となる子どもは、言葉(大好きな人の声)を聴き、同時に絵を観ながら、いろんなことを感じ、いろんな世界に自分の身を飛ばしているのでしょう。

 

別の授業で、学生たちに「幼児期に親にしてもらって自分が愛されていると感じたことを挙げて下さい」と聞くと、何かモノを買ってもらったことを挙げる学生はいなく、寝る前に大好きな絵本を読んでもらったことや虫取りを一緒にしたことなど、素朴なエピソードを語る学生がほとんどでした。そうした学生の姿からは、大人の側からみると他愛もなく、何気ないことが、子どもたちの心の中に残っていることを再認識させられます。つまり、自分のために、自分の好きな絵本を、自分の好きな人が、読んでくれたということが、自分が受けた愛情として心の奥底に残っているのです。
しかし最近、卒園までに数千冊の絵本を自分で読むことができるようになるといった宣伝や、絵本を文字の学習の教材として用いているという実践の話をよく見聞きします。目に見える形での成果や結果が、子育てや保育の場でも安易に求められるようになりがちです。本来、絵本を読み聞かせることは、量を競うものでもなければ、文字の学習のためのものではなかったはずです。読み手と聞き手の気持ちを繋ぐコミュニケーション・ツールの一つであり、読み手から聞き手へと愛情を伝えることなのです。
たとえ成果が目に見えなくても、記憶に残らないとしても、一人ひとりの子どもの育ちにとって重要な生活体験があるはずです。人生の土台をつくる乳幼児期に、どのような生活体験が重要なのか、学生とともに考えています。

三谷 大紀(人間発達学科)

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