教育学部教員コラム vol.113
2017.06.01 こども発達学科 三谷 大紀
ある幼稚園の5歳児クラスでの出来事。
こどもたちが、リレーの走る順番を決める際、何番目に走るかで少しモメました。同じ順番で走りたいこどもが複数いたのです。担任保育者は「どうやって決めるかちょっと話し合って、決まったら教えてね」と、走る順番の「決め方」を「決める」ことをこどもたちに委ね、その場を離れました。
さて、こどもたちは、どうやって「決めた」と思いますか?
同じ質問を授業のなかで学生たちにもしました。
真っ先に聞こえてきた答えは「ジャンケン」。でも、こどもたちは、ジャンケンでは決めませんでした。むしろ、ジャンケンでは決めたくないとのことでした。「わかった、みんなで走って勝った子がその順番を選べることにしたんじゃない?」という意見。なるほど。実際、こどもたちの間でも、この案は提案されました。でも、モメていたこどもたちの中から、「それだと、最初から○○くんが早いから、意味がない」(これまた、なるほど)という意見が出て、却下されました。
その他にも、「あみだくじ?」、「くじびき?」、学生からは色々な案が出てきました。
でも、こどもたちの選んだ「決め方」は、そのどれでもありませんでした。
じゃあ、何で「決める」ことにしたのか。ヒントは下の写真。
そう、こどもたちがしばらく話し合った末に、皆が納得して出した答えは、「にらめっこ」だったのです。
でも、何で「にらめっこ」なのでしょうか。話には続きがあります。
こどもたちは「にらめっこ」に「決め方」が決まると、担任保育者に「きまったよぉ~」と嬉しそうに報告に行きました。担任保育者が「何で決めることにしたの?」と聞くと、「にらめっこぉ!」と、これまた嬉しそうに子どもたち。それに対して担任保育者は「いいねぇ、でも何で『にらめっこ』で決めることにしたの?」と再び笑顔で訊ねます。すると、一人のこどもが得意気に答えます。
「ダッテネ、 『ニラメッコ』ダッタラ、マケタヒト ガ ワラッテ オワレル デショ。」
異なる意見や思いがブツかる時、私たち「おとな」は、どれくらいその相手のことを考えることができているでしょうか。こどもたちの「マケタヒト ガ ワラッテ オワレル」という「決め方」の論理には、そんな今まさにブツかっている相手さえも、思いやっている姿を垣間見ることができます。
ボクも走りたいけど、アイツだって走りたいはず。ボクが走れなかったら、ボクは悲しいけど、アイツが走れなかったときには、アイツも悲しいはず・・・。もしかしたら、そんなふうに、相手のことを思いやっていたのかもしれません。もちろん、いい加減「モメル」ことに疲れ、「笑い」が欲しくなったのかもしれませんが・・・。
こどもとともに生活を営む保育という仕事。それは、こどもを支え、育て、教えることばかりではありません。かつて「こども」だった私たち「おとな」が、こどもたちから教えられ、学ぶこともたくさんあるのです。
三谷 大紀(こども発達学科)