教育学部教員コラム vol.160

2021.06.22 こども発達学科 黒田 篤志

室の木キャンパスの自然 ~カイヅカイブキ~

  

 

昔住んでいた吹田の家にカイヅカイブキという植物があった。家の垣根全てに植えてあったので,その本数は相当なものであったと思う。小さかった私は,暇な時にカイヅカイブキの葉を,よく抓みとっていた。ある時,ふとカイヅカイブキには,写真左のように,チクチクな葉(写真中)と丸い葉(写真右)があることに気が付いた。何気なく存在する,その不自然さに不思議を感じていた。この生物学上の疑問に対して,家人は興味を示さなかったし,また,令和の時代のようにネット環境が整備されているわけでもなく,しばらく,その不思議は,未解決のまま,時が過ぎていった。この不思議に間髪を入れず教示してくれたのは,私の恩師の一人である元附属池田小学校の菅井啓之先生である。この不思議は,「先祖返り」という生物学上の現象で,カイヅカイブキだけでなく,ビャクシン類全体に現れるということだった。そのご教示をいただくまで,20年余の歳月,私の不思議が続いたのだが,いま改めて考えると,調べようという意欲の低さのみが際立って思い出される。恥ずかしい限りである。

カイヅカイブキは,ヒノキ科ビャクシン属の植物で,園芸品種として知られている。学名は,Juniperus chinensis Kaizukaである。学名にKaizukaとあるように,カイヅカイブキは「貝塚伊吹」と書き,大阪府の南にある「貝塚」という地名と滋賀県と岐阜県の県境にある「伊吹山」に因んで付けられたという説がある。カイヅカイブキの花言葉は「援助」で,その捻れた枝葉から縁起のよいものとして愛されてきた。

さて,「先祖返り」だが,これは,「杉葉(すぎば)」「針葉(はりば)」(写真中)と言い,原種の特徴をもって生えてきてしまった葉である。これに対し,通常の葉を「紐葉(ひもば)」「鱗形葉(りんけいよう)」と呼んでいる。カイヅカイブキは,古い木になったり,強剪定をしたりすることで,このように「先祖返り」した杉葉が出やすくなるのである。また,水不足や栄養不足,高温障害などの生育上のストレスによっても発生しやすくなる。とてもデリケートな植物なのである。

植物も人間同様,環境に左右されて,その形態まで変化させながら生息している。室の木キャンパスのカイヅカイブキを見るたびに,不思議に対する知的好奇心の必要性とストレスを溜めない生き方を考える毎日である。

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