教育学部教員コラム vol.163

2021.09.28 こども発達学科 鈴木 公基

「リアル」について考える

私は教育心理学などの授業を担当しています。私の専門は心理学なのです。
心理学は「心のリアル」に迫る学問であると言うことができます。例えば、こどもは無邪気な心をもっているけれど、動物や虫などをいとも簡単に殺してしまうような残酷な心も同時に持ち合わせている、ということは、まさに心のリアルな姿です。
 人間や生きることの「リアルさ」を実感することが現代社会では少なくなっているように思われます。
 話はいくらか脱線します。
私は山登りが趣味なのですが、そこでの私の体験をみなさんと共有できればと思います。
 もう10年ほど前になるでしょうか。群馬県と新潟県の県境に位置する巻機山という、たいへん美しい山に登りました。ちょうど紅葉シーズンで登山道には人がごったがえしていました。山では限られたところにしかトイレが設置されていませんので、紅葉シーズンにはトイレにも行列ができます。
 そのトイレでの出来事です。私の前にいた男性がトイレに入り、次はいよいよ私の番になります。トイレに行きたい気持ちが高まります。トイレの前でそわそわしていると、中から声がしてきました。「あれ。電器のスイッチがないぞ?」
・・・?
 しばらくして男性は顔を真っ赤にしてトイレから出てきました。出てくるやいなや、その男性は咳き込むようにゼーゼーと息をし始めました。どうやら男性はトイレの中で息を止めていたようでした。
・・・?
 下山ながら、私はトイレの出来事についてぼんやりと考えていました。
・・・そうか。あの男性は私とで「リアル」が違っていたのだな。私にとっては山に電器がないのは当たり前だし、山のトイレが臭い(というより、人間の排泄物というものが臭い)のは当たり前だ。だけれども、彼にとっては当たり前ではなかったのだろう。どっちが幸せなことなのだろう・・・?
 今考えると、男性にとってのリアルも、私にとってのリアルもどちらも大切なのだと思います。さらに考えることは、どちらのリアルをも知っておくことが大切だ、ということです。その人の心が感じるリアルを知ることによって、その人の見えている世界を実感することができるし、自分との違いも理解することにつながるからです。
 ちょっとヘンな話でしたが、こんなことも私の授業やゼミナールではとても重要な話題となります。大学での心理の学びに、いろんな想像をしてもらえるきっかけになれば嬉しいです。

みなさんも自然の中でいろんなリアルを感じてみては?
(写真は巻機山の紅葉)

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