教育学部教員コラム vol.166

2022.01.05 こども発達学科 横浜 勇樹

スクールソーシャルワーカーの活動-教育と福祉の連携-

厚生労働省の令和2年度「児童相談所における児童虐待件数」によれば、児童相談所の相談件数のなかでも虐待件数が急増している。被虐待児については、乳幼児のみならず、学齢期の児童の増加も目立っており、児童をどのように虐待からまもることができるか、その対応が急がれている。

児童虐待の問題の背景にあるのが、保護者の問題である。中でも保護者が経済的に苦しい状況におかれている家庭では、保護者による養育放棄(ネグレクト)の問題が多くあり、そのような家庭では、児童に十分な食事を与えられることが少なく、成長期の児童にとって健康的にも悪影響が生じている。さらに、保護者の養育放棄の問題は、学齢期の子どもを学校に通学させない「教育ネグレクト」への問題にも発展しており、児童が健全に教育を受けることができる環境を整えるためにも、児童を虐待からまもるのと同時に家庭への支援も必要となっている。

また、学齢期の児童の問題に不登校児童の増加がある。不登校児童とは、文科省は次のように定義している。「年間30日以上欠席した児童生徒のうち、病気や経済的な理由を除き、「何らかの心理的、情緒的、身体的、あるいは社会的要因・背景により、児童生徒が登校しない、あるいはしたくともできない状況にある者」

また、不登校児童の不登校に至った経緯を見ると、小学校では「いじめ」や「友人関係」等の問題よりも、家庭環境による要因を理由とするものが多い。その家庭環境の要因が前述の家庭内における児童虐待や親の経済的な貧困問題である。また、不登校の理由として「その他本人にかかわる問題」の中に、広汎性発達障害(PDD)、学習障害(LD)、注意欠陥性多動性障害(ADHD)などの発達障害が原因とするものも多いとされている。発達障害のある児童は、学校内、教室内で他の生徒や教員らと人間関係を築くことができず、不登校になるケースや、学習についていくことができずに学校に行く気持ちが失せてしまい不登校になるケースである。

このように学齢期の児童の問題は保護者による虐待の問題、児童本人の問題などによる不登校の問題など、福祉のソーシャルワーカー(SWr)が家庭の支援をするだけでは十分ではなく、学校においても児童の学習面のみの支援だけではなく、児童が抱えている課題を把握し、学習面と併せて児童の家庭環境や児童への適切な支援が必要である。そのために近年、スクールソーシャルワーカー(以下SSWrとする)が、小学校や中学校を中心に配置されており、学校において学級担任や学校長らからなる学校のチーム体制と社会資源を有効に活用しながら、児童の支援にあたっている。

 

スクールソーシャルワーク(SSW

スクールソーシャルワーク(SSW)の活動は、子どもたちの不登校やいじめなど学校におけるにけるさまざまな問題や、発達障害を含む障害児の最善の利益をまもるために、SSWrが子どもとその家庭、学校の担任教員や校長などの管理職、福祉事務所や児童相談所などの福祉機関、保健所や病院などの医療機関など関係機関と連携しながら援助していく活動である。わが国においては、平成12年に兵庫県や大阪府でSSWrが導入された。その後、平成20年度より文部科学省の「スクールソーシャルワーカー活用事業」が始まると、全国の自治体に配置されて現在、さまざまな形で実践活動がおこなわれている。

SSWrの職務内容は以下の主に以下の5点ある。

①問題を抱える児童生徒が置かれた環境への働きかけ。

②児童をめぐる関係機関等とのネットワークの構築、連携、調整。

③学校内におけるチーム体制の構築と支援。

④保護者、教職員等に対する支援、相談、情報の提供。

⑤教職員への研修活動など。

また、ソーシャルワーク実践においては、SSWrの活動は以下のように類型することができる。

①個別事例へのアプローチ(子ども・家族への面談、訪問調査、教員の支援など)

②学校内の体制づくりへのアプローチ(校内ケース会議の開催、研修会の開催など)

③市町村における家庭相談支援体制づくりへのアプローチ

(福祉、学校関係者による連携ケース会議の開催、市町村のネットワーク会議への参加、市町村における相談体制作りへの関与など)

コロナ禍では子どもの貧困が一層クローズアップされた。子どもの生活は学校がその中心であることを考えると、学校を中心とした子ども支援のためにSSWrの活動の充実が望まれている。

 

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