教育学部教員コラム vol.167
2022.02.15 こども発達学科 藤村 幸秀
私は、36年間小学校の教職の世界にいました。
教師は、確かに厳しい環境の中で仕事をしています。しかし、他の職業では絶対に経験できない子どもとの何気ないかかわり、ドラマ、喜び、発見、感動、絆があります。前回に引き続き小さなドラマを紹介します。
私が5年生の担任をしていた時の出来事です。
クラスの子どもの中にAさんという子がいました。4年生の時は、授業中に学校の池で泳いでいたり、教室でロッカーの上で暴れていたり、休み時間には毎日喧嘩をしたりと学校中で有名な男の子でした。
学年が変わり学力テストをやっている時のことでした。
「藤村先生、藤村先生。」
「どうした、Aさん。」
「これ、なんて読むの。」
Aさんが指差していたのは、平仮名でした。私は、4年間学校に毎日来て、平仮名を覚えることさえできなかったことにショックを受けました。この子の力になろうと決意しました。
しかし、そんな思いとは裏腹に、日々の友達とのトラブルで注意することばかりになってしまう毎日でした。その日も係活動をやっていました。
「先生,Aさんが勝手なことをして、仕事をやってくれません。」
「Aさんが、急に頭を叩いてきました。」
と友達からの苦情が次々に上がってきました。私は,Aさんを呼んで話をすることにしました。
「Aさん、何で自分の仕事をしないで、友達に手を出しているんだ。」
「だって、つまらないんだよ。やりたくないことばかり言ってくるし。むかつくんだ。」
「そうか。それじゃあ、Aさんは、何がしたいんだ。」
「俺は、祭りがしたいんだよ。祭りで神輿を担ぎたいんだ。だって、夏祭りでいつも神輿を担いでいるんだ。」
「よし、分かった。Aさん、祭り係をつくろう。もう一人仲間を集めて来ることはできるか。」
私は、もう一人の参加を確認した上で、クラスの子どもたちから祭り係の承認を得て活動を始めさせました。
それからというもの、Aさんと二人は、毎日毎日空き教室で段ボールや画用紙を使って、神輿を作っていました。予想に反して、根気強く作り続け、みんなも驚く立派な神輿が出来上がりました。
「藤村先生、神輿を担いで学校中を練り歩きたい。お願いします。」
私は、雨の日を選んで、教職員の皆さんに事情を話し、お許しを得ました。
すると、何とほぼ全校の子どもたちが廊下に出てくれてAさんの神輿を担ぐタイミングに合わせて
「ワッショイ、ワッショイ、ワッショイ。」
と声を掛けてくれたのです。
Aさんはもう顔を真っ赤にして必死に神輿を担いでいました。
教室に戻って来たAさんは、今まで見たことのない満面の笑みを浮かべ
「藤村先生、めちゃくちゃ楽しかった。」
と大声で言いました。
Aさんは、どんどん変わっていきました。勿論、喧嘩がなくなったわけではありません。でも、前向きな思いをもち、楽しいそうに学校生活送るようになっていきました。
子どもを大きく変える一つは、間違いなく子ども同士の世界での事実です。小さなドラマは、子どもと真摯に向き合っていく中で生まれるものです。
私は、今でも神輿を見ると、Aさんが満面の笑みで神輿を担いでいる姿を思い出します。